RAGを作っていると思ったら、個人的無意識を作っていた
はじめに
ObsidianとローカルLLMを用いた個人的な認知OSを実験中です。
やりたかったことは単純でした。
「過去の知識を思い出しやすくすること」
Obsidianにノートを蓄積し、ChromaDBへ埋め込み、AnythingLLMやローカルLLMから検索する。いわゆるRAGです。
ところが数か月運用しているうちに、ある違和感を覚えました。
検索されていたのは知識だけではなかったのです。
過去の仮説。
説明できなかった違和感。
保留した判断。
放置した矛盾。
私はRAGを作っていたつもりでした。
しかし振り返ると、構築していたのは「個人的無意識」に近いものだったように思います。
本記事は、その観察記録です。
RAGは知識検索システムなのか
一般的なRAG(Retrieval-Augmented Generation)は、次のようなパイプラインで説明されます。
Question → Retrieve → Generate
目的は、必要な情報を検索し、より良い回答を生成することです。
私も最初はその理解でした。
ところが実際の運用では、少し違う現象が起きていました。
AIとの対話中に、
- 以前の未整理メモ
- 昔の仮説
- 保留した検討事項
が思いがけない形で浮上してくるのです。
しかも、それらは必ずしも「質問の答え」ではありません。
むしろ、**「以前にも同じような違和感を持っていたのではないか」**という形で現れます。
そのとき私は、RAGは回答生成を補強しているというより、過去の認知を再想起させているのではないかと思うようになりました。
なぜ「個人的無意識」と呼ぶのか
もちろん、これは心理学的な無意識そのものではありません。
ここで言う個人的無意識とは、**「普段は意識されていないが、必要なタイミングで現在の判断へ影響を与える記憶層」**を指しています。
例えば私はメモの中に、
- 当時は説明できなかった違和感
- 後回しにした判断
- 根拠不足で保留した仮説
を残しています。
普段それらを読み返しているわけではありません。
しかし埋め込み検索を通じて、それらが再び表面化することがあります。
これは私にとって、検索というより「想起(Recall)」に近い体験でした。
Knowledge Layer と Memory Layer
この違いを整理するため、私は役割を分離して考えるようになりました。
Knowledge Layer(知識層)
ObsidianはKnowledge Layerです。
ここには、以下のような情報が保存されます。
- 観察記録
- 仮説
- 違和感
- 学習内容
人間が直接編集する正本(Source of Truth)です。
Memory Layer(記憶層)
ChromaDBやAnythingLLMはMemory Layerです。
ここは知識の保管庫ではありません。過去の思考を再想起させるための層です。
目的は正解を出すことではなく、**「そういえば以前にも似た問題を考えていなかったか?」**を思い出させることです。
Crystallization Layer(結晶化層)
AIとの対話では新しい仮説が生まれます。
しかし、その多くはそのままでは消えていきます。
そこで私は、その対話を整理してObsidianへ定着させる工程を設けました。現在はGemini Scribeを利用しています。
私はこれを Crystallization Layer(結晶化層) と呼んでいます。
ここでは知識を確定させるのではなく、後で検証できる候補として保存します。
Agentic RAGよりもAgentic Evaluation
最近はAgentic RAGがよく話題になります。
しかし私が関心を持っているのは検索の高度化ではありません。
むしろ、**「検索された情報をどう評価するのか」**です。
人間の判断で本当に難しいのは、何を信じるかよりも、何を保留するかだからです。
例えば、「この仕組みを採用すべきか」という問いに対して、
- 検証不足
- コスト不明
- セキュリティ不明
であれば、「結論を出さない」という選択肢が存在します。
まだ適切な名称かは分かりませんが、ここでは暫定的に Agentic Evaluation と呼んでいます。
検索よりも評価。回答生成よりも保留管理。ここに関心があります。
Cognitive Historyという実験
この発想が生まれたきっかけは、認知変化を記録し始めたことでした。
私は次のようなテンプレートを試験運用しています。
Cognitive History Candidate
Trigger:
Before:
Shift:
Generated Hypothesis:
Pending:
Contradiction:
Next Observation: 知識そのものではなく、**「考えがどう変わったか」**を記録する試みです。
すると後日の対話で、結論だけでなく、
- その時の前提
- 保留事項
- 発生した矛盾
まで再想起されるケースが出始めました。
サンプル数はまだ少数です。
しかし少なくとも、「過去の認知履歴が後日の思考へ影響を与える」という現象自体は観察できています。
現時点での事実と仮説
事実
- ObsidianとRAG環境を運用している
- Cognitive Historyを試験記録している
- 過去の認知履歴が後日の対話で再想起される事例を観察した
仮説
- RAGは個人的無意識として機能しうる
- 認知履歴は知識とは別資産として扱う価値がある
- 意思決定支援では検索より評価が重要かもしれない
- 「保留する能力」はAI時代に重要になる可能性がある
おわりに
私は当初、RAGを強化しようとしていました。
しかし運用を続ける中で、関心は知識検索から認知管理へ移っていきました。
これは完成した理論ではありません。
むしろ現在進行中の観察記録です。
もしこの記事によって、
- 異なる解釈
- 反論
- 類似実験
- 矛盾する事例
が集まるなら、それ自体が貴重な観測データ(Contradiction)になると考えています。
この認知OSの実験について、今後も記録を公開していきます。
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